「気持ちいいことをする」という発明は、どこか一か所で生まれて広まったものではありません。祝いの席で何かを壊す、屋台で砂糖を抜く、社の境内で棒を一本引く。まったく行き来のなかった土地で、よく似た手の動きが別々に根を張っています。ここでは、ドパパークの12体験がどこの何を元にしているのかを、国ごとにまとめました。読み終わったら、気になったものをその場で30秒だけさわってみてください。
メキシコ — 壊すことが祝いになる
メキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)は、ピニャータについて、16世紀後半にアコルマン(メキシコ州)へ入ったアウグスティノ会の修道士がもたらしたものとし、七つの角は七つの大罪を象徴し、割れることは悪が壊されることを表していたと説明しています。メキシコ農牧省の記事も、星形・七つの角・角ひとつが大罪ひとつという対応を記しています。
ここで面白いのは、壊すことに理由が与えられている点です。ふつう、物を壊す行為には後ろめたさがついてまわります。ピニャータはそれを最初から取り除いてある。壊されるために吊るされ、壊した人が祝われる。世界の「気持ちいい」のなかでも、破壊がここまで正面から肯定されている例はそう多くありません。 → ばりん(星を叩いて割る)をさわってみる
韓国 — 抜き切れるかどうかの数十秒
달고나(ダルゴナ)は、溶かした砂糖に重曹を加えて膨らませ、平たい円盤にした菓子です。大韓民国政府の広報サイト Korea.net は2025年1月8日付で、オックスフォード英語辞典に dalgona を含む韓国語由来の7語が追加されたことを伝え、その定義に「表面に心臓や星などの簡単な形が刻まれた平たい円盤の形で、屋台で売られることが多い」という記述が含まれることを紹介しています。形が定義文に入っているというのは、それだけこの菓子が「形を抜く」遊びと分かちがたいということです。
砂糖という素材は、見た目ほど均一ではありません。同じ形を同じように抜いても、ひびの入る場所は毎回ちがいます。だからこの遊びは、うまくなっても確実にはならない。 → ぱりっ(型のふちをなぞって抜く)をさわってみる
日本 — 待たされる数秒を作る技術
日本の二つは、どちらも「まだ決まっていない時間」を意図的に引き延ばしています。
ひとつはおみくじ。神社本庁の公式サイトは、江戸時代になって現在のような個人の生活の指針や運勢を占う形のものが見られるようになったと説明し、吉凶の順の一例として「大吉→吉→中吉→小吉→末吉→凶」を挙げています。引いたあとは結び所に結んでも持ち帰ってもよい、とも書かれています。注目したいのは、この筒が「すぐには出ない」ように作られていることです。垂直に立てて振っても棒は出てきません。傾けて、鳴らして、やっと一本出る。 → ころん(筒を振って棒を出す)をさわってみる
もうひとつはカプセルトイです。バンダイの公式サイトによれば、同社の「ガシャポン」は1977年に誕生し、初号機の BVM100 型は当時20円が主流だった市場に100円で参入しました。名前は、ハンドルを「ガシャ」と回すと「ポン」と出るところから付いています。ここでも、回し切るまでの数秒と、落ちてきたカプセルを開ける一瞬が分けて作られています。 → ぱかっ(回して開ける)をさわってみる
アメリカ発・世界へ — 荷物を守る材料が遊び道具になった
気泡緩衝材は、もともと遊ぶための材料ではありません。Sealed Air Corporation を出願人とする特許「Method for making laminated cushioning material」(発明者 Marc A. Chavannes・1959年11月27日出願/1964年7月28日登録)には、二枚のフィルムを貼り合わせて気泡の層を作る方法が記されています。日本では川上産業株式会社が「プチプチ」を1994年に商標登録し、同社は一般名称が「気泡緩衝材」であることを公式サイトで明記しています。
道具として作られたものが、使い終わったあとに遊び道具へ変わる。この転用は世界中で同時に起きていて、誰かが広めたわけではありません。 → ぷちっ(気泡を潰す)をさわってみる
国をまたいで残っている手の動き
残りの体験には、特定の一国に帰せられる由来がありません。かわりに、どこの国の手仕事にも同じ動きが残っています。
- 剥がす — 新品の機器に貼られた保護フィルムは、剥がされるために貼られています。→ ぺりっ
- 削って出す — スクラッチ印刷は、削った人にだけ下が読める仕組みです。→ がりっ
- 一息で切る — 石鹸の裁断、羊羹の切り分け。迷った線は断面に出ます。→ すぱっ
- 押して戻る — パン生地、粘土、漆喰。ちょうどいい硬さだけが何度も押させます。→ むにゅっ
- 色をそろえる — 並べ替えても機能は変わらないのに、手が動きます。→ しゅっ
- 倒す — 並べた時間を数十秒で回収します。→ とんっ
- 線で止める — 計量カップにも升にも、狙うべき一本があります。→ とくとく
読むより、さわったほうが早い
ここまで書いてきて言うのも変ですが、この種の行為は説明を読んでも分かりません。手の中で一度起きてしまえば、説明はいらなくなります。どれから始めても構いませんし、順番もありません。